深大寺での年越営業と延年蕎麦
深大寺 そばごちそう 門前の年越し営業(大晦日の夜から元旦朝まで)の始まりは、昭和35年(店主13才)の大晦日でした。
きっかけは前年の大晦日の夜に起きたささやかな出来事でした。
大晦日のNHKの紅白歌合戦が終わると人々は初詣のためにぞろぞろといった様子であちらこちらから歩いて深大寺へ向かうのがこの頃の慣習でした。
店舗に隣接した自宅に住む私達の耳に参詣人の足音とざわざわとした音の響きが届きます。
その頃の山門下は街灯の光も乏しく、ほんとうに真っ暗な場所でした。近隣に住む人たちはほとんどこの時間に外へ出ることはありません。当然のことながら子供の私は山門下の様子は知りませんでした。
ただ、この夜の山門からの耳元に届いた音はいつもと違いました。
なにか異様な事が起きているのか・・・、と思わせるようなざわめく音の響きが届いてきたのです。
兄とふたりで奧の自宅から店へ出てみました。
そのざわめきの音の正体はすぐわかりました。あまりの寒さに震えて人々が足踏みをしていたのです。
当時の店(外席)は冬の時季、暖をとるために数カ所に囲炉裏が設(しつら)えてありました。
すぐに兄が囲炉裏に火をおこしてあげようと言い、ふたりで2カ所の囲炉裏に薪をくべ、火をおこしにかかりました。 数分とかからず勢いよく火が起ち上がると山門周辺の人たちがワッと囲炉裏に集まってきました。燃えあがる火にかざす手は、後々気付いたことですが「千手観音」のように見えたものでした。
その時、あかあかと燃ゆる焚火に手をかざしながら、一人の男性がつぶやいた一言をきっかけに、大晦日の年越し営業が始まりました。
「これで温かいものが食べられたらなぁ~」
爾来(じらい)60年続いた年越し営業ですが、コロナ禍の「自粛営業」に対応するため、今年令和2年の大晦日の夜から元旦朝にかけての年越し営業はお休みすることにいたしました。
ご了承くださいませ。
「年越蕎麦」には、古来長寿を願い、これを寿(ことほ)ぐという祝意の一面があります。
大晦日から始まる初詣の期間、皆様のご健康とご長寿を寿ぐ蕎麦として天台宗(深大寺の宗派)に伝わる古式『延年の舞』(五穀豊穣と長寿の寿ぎ)にあやかりまして、「延年蕎麦」と称し、この期間(1月11日まで)だけの特製の蕎麦を提供させていただきます。
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